“言い得て妙”って英語でなんて言うの? |《言語 ✕ 文化的背景》シリーズ①

【言語 ✕ 文化的背景】の重要性
日本語には、言い得て妙という表現があります。
言い得て妙(いいえてみょう)
「なんて巧みな表現だろう」、「なんとも的確に言い表している」
ということを意味する表現であり、定型的な言い回し。
私がこの表現を知った時には、やはり「妙」という字にどうしても目が行き、“不思議”や“風変わり”という意味が浮かんだことで最初は違和感を覚えながらも、この時「妙」には“この上なく素晴らしい”という意味もあるということを学びました。この表現は独特であり、とても美しい言い回しだと思います。
さて、もしあなたがある日、英語で誰かと会話をしている最中に相手がとっても上手いことを言ったとします。ちょうどこの「言い得て妙」が頭に浮かんできて、今この会話の中で使いたい!と思ったとしましょう。
そこには、限りなく近いニュアンスの表現が多数存在していたとしても、そのままの英語訳は存在しないかもしれません。これは、日本と相手の国では言語もそもそもの文化的背景もまったく同じであるわけがないので至極当然のことです。こういった場合、ニュアンスで訳す、またはもう直訳してしまい説明を加えるといった伝え方が考えられます。
ただし、ここでつまずき英語をあきらめてしまうのはMottainai!英語への向上心は決して失わず、常に自分の奥底に眠る知的好奇心を胸に秘めて、話している相手を思いやりながら話す気持ちは決して失わないことが大切です。話している相手との文化的背景の違いを思いっきり楽しんでしまいましょう!
英語で会話しているそのシチュエーションが、職場での大事な会議の最中であったり、大人数での会話でポーンポーンとピンポン玉のように会話が弾みトピックが目まぐるしく移り変わっているような場だとすれば、そこで周りの注目を全て自分に集めてでも、「日本語で頭に浮かんでいる“言い得て妙”を自分なりに英語に置き換えてみるとどんな表現になるのか」などをその場で考えて説明するのは少し恥ずかしいということもあるでしょう。
ですが、もしもこの状況が一対一での会話や、親しい間柄の人達との会話の中であるとすれば、『“言いえて妙”って英語でなんて言うかわからないけど、ニュアンスだけでもいいから相手に伝えたい!』とポジティブに考えて、「実は今、この状況にぴったりな表現が日本語で頭に浮かんでいるんだけどね、その言い回しはきっと日本語独特のもので…(中略)…今さっき君が言ったことって、この状況に合ったとても巧みな表現だったよねって言いたかったの」とていねいに伝えてみることもできますね。
英語をはじめ外国語を学ぶ上で、頭を柔軟にして考えるのはとても大切なことです。
各々の言語にはそれぞれの歴史があり、文化や風習などと言葉はとても深く関わり合っていて、さらに、言語というものは常に変化し続けているものです。大前提でありとても当たり前なことであるはずなのに、この事をなぜか忘れてしまいがちです。
Proverb / Saying
諺(ことわざ)は、言語と文化的背景が深く関わりあっていることを示すとても良い例だと言えます。もちろん、世界には不思議なことにまったく同じことわざが存在していたり、外国のことわざが日本に入ってきたりといったこともあります。
Strike the iron while it is hot. = 鉄は熱いうちに打て
<鉄は熱いうちに打て>という、英語も日本語もそっくりそのまま同じ表現でお馴染みのことわざですね。
ただ、このような違う言語でも同じ表現のことわざというのは、やはり少数派だと思います。
例えば、<弘法も筆の誤まり>という表現(諺)を、イタリア語に直訳してイタリア人に伝えたとしたら意味やニュアンスはそのまま伝わるでしょうか?カリグラフィーの歴史があるヨーロッパとはいえ、弘法大師という書に優れた歴史上の人物がいて、書をたしなむ歴史や文化がある日本だからこそ生まれたことわざの表現なのであって、仮にその書の筆を画家の絵筆に置き換えて想像することはできたとしても、やはりそのままの表現でイタリアに通ずることわざではありません。
<ベーコンを求めてソーセージを投げる>というのはドイツのことわざです。日本の<海老で鯛を釣る>と同じ意味で、わずかな労力で大きな収穫や利益を得ることを意味します。ベーコンやソーセージが登場するところがドイツらしいですよね。
<象に乗ってバッタをとる>というのは、タイのことわざ。大げさな手段で大きな労力を費やすがその苦労や時間に見合った結果を得ることができない、つまり割に合わないことを表しています。
さて、では英語圏に話を戻しましょう。
Throw a sprat to catch a mackerel. = 海老で鯛を釣る
さきほどの<海老で鯛を釣る>ということわざのイギリス英語版です。海老や鯛ではなく、小魚(ニシン)を意味するspratとサバを意味するmackerelが用いられていますね。「サバを釣るために小魚を投げる」が直訳ですが、小さな労力で大きな利益を得ることを例えているニュアンスは同じです。
「言い得て妙」は英語で?
さあ、最後に「言い得て妙」の英語訳について改めて考えてみましょう。
「言い得て妙だ」という表現。英語に訳すとなると実にたくさんの候補が出てきます。
なぜなら、これが日本語独特の言葉の組み合わせであるがために、結局は自分の頭の中でまず「この上なく素晴らしい表現だ」「いい表現だ」「いいこと言うね」「面白みのある言葉を選んでいる」「絶妙の表現だ」「上手い言い回しだ」「ぴったりの表現だと思う」「ぴったりの言い回しだ」など、わかりやすいように変換してから訳すことになるからです。
“言い得て妙”の英訳は
perfectly fitting phrase
と辞書には出てきます。
しかし、「言い得て妙だ」と言いたい場面のそのコンテクストによっては、
fitting / suitable / apt
phrase / expression / term / description
と、さまざまな単語の選択肢が考えられます。
「言い得て妙だ」を英語にするとなると、場面や自分のその時の言い方に応じて次のように訳すことができると思います。
言い得て妙だ
That’s an apt way to put it.
The expression fits perfectly in this situation.
That’s a perfectly fitting phrase.
That’s well put!
Beautifully put!
Admirably put!
つまり、答え(訳)は決して一つではありません。そこが本来の言語の面白いところでもあるのです。
日本語が母国語である限り、「この日本語って、英語だとなんて言うんだろう?」と疑問に思う瞬間は誰にでもあると思います。そんな時、コンテクスト、つまり状況や前後関係が非常に重要ですし、何より、そもそも完璧な対訳が無いような場合もあるのだということを念頭に置いておくことが第一です。
そして、(もちろん瞬発力が問われるような状況下では難しいかもしれませんが)そんな時に、その場は発言せずに流してしまうか、せめて英語圏の文化的背景に合わせて似た表現を使って切り抜けるのか、はたまた、その瞬間を互いのCultural exchangeの場と捉えて、「英語では言い表せないんだけど日本語にはこんな表現があってね、それは…」と楽しんで自ら発信していくのかは、あなた次第なのです。せっかくのアウトプットの機会。実際に英語で誰かと会話する時は、チャンスを最大限に活かす方が楽しく学べるはずです!
また今後の記事でもこの【英語✖文化的背景】というテーマで深く掘り下げていきたいと思っていますので、次回のブログもお楽しみに♬
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